前編では佐々木秀之教授による、地域創生におけるフレームワークのお話を詳しくお伝えしました。
後編では佐々木教授と佐藤社長、そして月刊TACT編集長の布施哲朗氏によるトークセッションの内容をご紹介します。
佐元工務店が70周年を記念し、来春オープンを目指しているのが仙台市若林区古城の新社屋です。
CLTの壁面を軸組で囲う構造は、設計担当者も想定していなかった「全国初」の取り組みとなりました。特に注目すべきは1階部分の構成で、地域のコミュニティに開放する多目的スペースを設ける計画となっています。
佐藤社長
「建物自体は700平米ほどで、事務所機能は2階のみとし、1階には不動産売買の店舗や、新たに始めるグリーンショップ、そして多目的スペースを設けます。年数回は社内会議などにも使いますが、それ以外は地域のコミュニティに貸し出したりイベントを開催したりする予定です。災害時の一時避難場所としても活用できる広さになっています」
佐々木教授
「新社屋はデザインも目立ちますし、かっこいいですよね。全国初というのは地域の子どもたちも誇りに感じ、こういうところで働きたいと思うのではないでしょうか」
佐々木教授は佐元工務店の新社屋におけるコミュニティスペースの設置を高く評価しました。
従来の大規模施設による一律的なサービス提供から、地域密着型のきめ細やかな対応への転換が求められる中、工務店が提供するコミュニティスペースは新たな可能性を秘めているというのです。
佐々木教授
「今までは介護の施設や、子どもたちの拠点というのは、国の施策によって作られた大きな施設で担ってきました。しかし、きめ細やかな福祉や子育てというのは、それだけではなかなかカバーできません。新社屋は単なる事務所ではなく、地域の社会インフラとしてさまざまな政策の受け皿にもなっていくのではないでしょうか」
佐藤社長
「先日は知育という切り口でのイベントを開催しましたが、反響の大きさに驚かされました。今後はベビーマッサージや読み聞かせなど、子育て世代にとってプラスになるイベントもやっていきたいと思っています」
話題は地域でのイベント活動から、業界全体の課題へと移りました。住宅市場全体の縮小が避けられない中、地域工務店はどのような戦略で成長していけばよいのでしょうか。
布施編集長
「今後、新築住宅市場はシュリンクしていくと言われています。少子高齢化で世帯数が減り、実質賃金はなかなか上がらないなか、新築住宅は厳しいのではないでしょうか」
佐藤社長
「佐元工務店は70年間この地で活動してきましたが、仙台市内における一般消費者の認知度は、100人いたら3人知っているかどうかという状況です。今までできていなかったことを一つひとつ取り組むことで、まだまだ伸びしろがあると考えています。住宅のシェアを増やしつつ、賃貸・リフォーム・リノベーション・非住宅までお手伝いできる体制もあるので、しっかりとその強みを活かせる企業づくりを進めていきたいと考えています」
トークセッションも終盤に近づき、佐々木教授から佐元工務店のリブランディングについて、深い洞察をいただきました。
佐々木教授
「2015年に始まった地方創生。震災をきっかけに外との連携が進み、東北は待っていれば来てもらえる状況でした。しかし、10年経った今は、もうそのような流れはありません。やはりこちらから仕掛けていかないと、扉がこじ開けられない時代です。そんな中で重要になってくるのが企業の理念。今回、佐元工務店が作った指針やステートメント、そしてミヤギノハギの意味をしっかりと読み取っていただければ、社員の方にも地域の方にも共感してもらえると思います」
佐藤社長
「1955年にミヤギノハギが県花に選定されたのは、奇しくも佐元工務店の創業と同じ年でした。今後はミヤギノハギに込められた意味について、社内でしっかりと理解を深めていきたいと思います」
佐元工務店の新ブランドは単なる企業イメージの刷新にとどまらず、宮城という地域の文化的アイデンティティを現代に蘇らせる可能性を秘めています。岩手県の宮沢賢治のように、ミヤギノハギが新たな地域哲学の核となる日が来るかもしれません。
佐元工務店は「この地に根差し この地を愛し この地で活きる」というミッションのもと、100年企業を目指して新たな挑戦を続けてまいります。地域の皆様とともに、より豊かな暮らしと活力ある地域づくりに貢献していく所存です。